の意味








「・・・・・・・・・・ちょっと」

「や、遅かったね♥」



 わたしがこの得体の知れない人物と出会ってからもうすでに両方の手足なんかじゃたりないくらい引越しを繰り返して繰り返して繰り返してるっていうのにまたこいつはなんでこう平然と鍵の掛かった人の家にずかずかと上がりこんであまつさえ勝手にお気に入りのカップでコーヒーを煎れてソファでくつろぎながら飲んでやがるのかとかはもうどうでもよくて。
足元のライトグリーンのわたし専用のスリッパも、この際見ないことにしてやるけど。



「なんで、人の家で殺人犯しちゃってるわけ?」

「あぁ、そんなこと?♣」



 そんなことって!

 大体よく見てみなさいよあんたが優雅にもたれかかっちゃってるそのソファのすぐ後ろ!知らないオッサンが色んなとこから血流してそして明らかに恐怖におびえた顔で死んでるじゃない!ってそうじゃなくてその流れ出した血が高かったカーペットに染み込んでるの、もうそれはだくだくとじわじわと!あんたは知らないかもしれないけどカーペットに付いた汚れってすごく落としにくいのよっていうかこんな血だらけのものクリーニングに出せやしないじゃない!



「・・・いい加減、無言で訴えてくるの止めてくれよ♠」

「言いたいことは分かってるんでしょ」

「まぁね、以心伝心ってヤツだろ?♥」

「ごめん、吐き気がするから今すぐ速攻で瞬時に帰って消え去って二度とわたしの前に現れないでくれない今後一切金輪際」

「手厳しいなァ、ボクたちの仲じゃないか♦」

「初めて顔を合わせて4ヶ月でまだ満足にあんたの素性も名前さえも知らなくて住所も何も教えたつもりもないのに調べて付いてきて、引っ越しても気が付いたらいつのまにか家に上がりこんでて勝手に食器やら家具やら使って馴染んでやがるまだ一度も触れ合ったことも半径1メートル以内に近づいたこともない仲が何だって?」

「・・・・・・・・・♠」



 なんでわたしがこんなヤツに付きまとわれなくちゃいけないんだろう。神様!平等に幸せをくれるっていうのならこの先どんな辛いことがあってもいいから今すぐにこの変態をわたしの前から消してください、あわよくば抹殺。



「今すごく黒いこと考えただろ♣」

「それが分かったんならとっととわたしが心の底から願ってることを実行してほしいものだけど」

「ウーン、残念だけどそれは分からないな♦」

「このやろう!」



 そばにあった植木鉢を投げつけてやったのにこいつは目の前のしゃぼん玉をつついて割るみたいに軽々キャッチしてそのうえやさしくテーブルの上に置きやがった!わたしが大切に育てたって知ってたのね、この変態!こっちを見ながら分かったように微笑むな気持ちが悪い!



「ずっと立ってちゃ疲れるだろ?座りなよ♣」

「あんたここがどこだか分かってんの」

「ボクの大好きな人が駆けずり回って見つけたステキな部屋♥」

「っ・・・・・!」



 しんじらんない、しんじらんないこいつ!別にいまさら隣に湯気の立つコーヒーカップがもう1つ置いてあることになんか気づいたわけじゃないんだから!その横にわたしのお気に入りの店のクッキーの一番高い包みがあることになんか気づいたわけじゃないんだから!ほんとしんじらんない!



「ボクの名前はヒソカ。今すむところがなくて困ってるんだけど、暖かいこの部屋に一晩泊めてくれないかい?♦」



 今顔が赤いのは、ストッキングがちょっと破れてるのに気づいたからだからね!











ねぇ、そういえばあのオッサンは何だったの?

あぁ、勝手に入り込んで部屋を漁ってた、いわゆるストーカーってやつかな。

ふぅん、棚に上げるってこういうことを言うのね。










***
チャンチャン。昔のお話。
『普通じゃなくても良いじゃないか!』様に参加させていただいたものです。





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